〔世阿弥の名言〕
・秘すれば花なり。秘せずは花なるべからず。
(自分だけの芸の秘伝を持ち、これをいたずらに使うことなく、いざという時の技とすれば、相手を圧倒することができる。)
・初心忘るべからず。
・ぜひ初心忘るべからず。
・時々の初心忘るべからず。
・老後の初心忘るべからず。
・男時・女時(おどき・めどき)。
・時の間にも、男時・女時とてあるべし。
・いかにすれども、能によき時あれば、必ず、また、悪きことあり。これ力なき因果なり。
(男時:自分に勢いがある時、女時:相手に勢いがある時)
(競合する者の勢いが強くて押されていると思うときには、小さな勝負ではあまり力まず、そんな勝負は気にしないで捨ててでも、大きな勝負に備えよ。)
・時節感当。
・これ、万人の見心を、シテ一人の眼精へ引き入るる際なり。当日一の大事の際なり。
(時節とは、能役者が舞台に向かい、幕があがり橋掛かりに出る瞬間のこと。観客が役者の第一声に耳を澄ましている。その絶妙のタイミングで声を出すのだ。)
・衆人愛敬。
・いかなる上手なりとも、衆人愛敬欠けたるところあらんを、寿福増長のシテとは申しがたし。
・貴所、山寺、田舎、遠国、諸社の祭礼にいたるまで、おしなべて譏りを得ざらんを、寿福達人のシテとは申すべきや。
・万一少しすたるる時分ありとも、田舎・遠国の褒美の花失わせずば、ふつと道の絶ゆることはあるべからず。
(大衆に愛されることが一座の最も大事なことである。)
(支持してくれる大衆がいるなら、都の評判などどうなっても何とかやっていけるものだ。)
・離見の見(りけんのけん)。
・後ろ姿を覚えねば、姿の俗なるところをわきまえず。
・離見の見にて見るところはすなわち、見所同心の見なり。
(自分の姿を左右前後から、よくよく見なければならない。)
・家、家にあらず。継ぐをもて家とす。
・たとえ自分の子であっても、その子に才能がなければ、芸の秘伝を教えてはならない。
(家は、ただ続くだけでは意味がない。家芸を正しく継承してこそ、家が続くといえるのだ。)
・稽古は強かれ、情識はなかれ。
(稽古は厳しい態度でつとめ、決して慢心してはならない。)
・時に用ゆるをもて花と知るべし。
(物事は、その時に適したものを良し、無益なものを悪しとする。)
・年々去来の花を忘るべからず。
(幼年期から老成期まで学び習い覚えたすべてのこと・技法を忘れてはならない。)
・住する所なきを、まず花と知るべし。
(そこに留まり続けることなく、変化することこそが芸術の奥義である。)
・よき劫の住して、悪き劫になる所を用心すべし。
(劫(ごう)とは「功績」のこと。)
(良しとされたことに安住すると、それが悪い結果を招いてしまうことに用心せよ)
・時分の花をまことの花と知る心が真実の花になお遠ざかる心なり。
(若い時の美しさはほんの一瞬だけのもの。それを自分の魅力だと思っていると本当の自分の魅力に辿りつけない。)
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